平成21年度

鹿児島大学法科大学院

入学者選抜試験 第一次募集

個別試験 小論文




◆問題用紙

こちらでご覧いただけます。

問題用紙の現物は、鹿児島大学法文学部専門職大学院係の窓口(鹿児島市郡元1-21-3 鹿児島大学郡元キャンパス 法文学部棟1号館1階)で閲覧することができます。

◆出題の意図

各設問の出題意図は、以下のとおりです。

設問1

【統計資料の出典】
法務総合研究所編「平成19年版 犯罪白書」より
132頁・4-4-4-4図
133頁・4-1-1-2図
135頁・4-1-1-6図
136頁・4-1-1-8図

【出題の意図】
 本設問は、少年非行の動向を示した4点の統計資料を手がかりに、そこに含まれている数値に基づいて述べることができる客観的な事実を明らかにするとともに、その事実に基づいて正当性を主張可能な政策的提言を、簡潔に述べさせるものである。
 法科大学院で主として学修する「法解釈学」では、解釈者の価値判断を不可避的に内包しつつも、立論の正当性は、あくまでも制定法の「条文」と証拠によって認定される具体的な「事実」に依拠する。この設問では、端的に個人の意見を表現する力を試すのではなく、立論の基礎とすべき事実を統計資料から読み取る力と、事実に即しながら自己の主張を展開する力を試している。
 以上の出題意図に鑑みて、採点においては、少年非行の現状や対策として述べていることが、刑事法学、犯罪学、社会学の専門的な知見と合致しているかどうかは問わない。統計から事実を読み解く力として、たとえば、複数の統計データを組み合わせることによって事実を導こうとしているものは高く評価される。また、非行対策を論じるにあたって、データから導いた事実を着実に踏まえ、これに寄り添った形で論旨を展開しているものが高く評価された。逆に、グラフを読み解く基本的な力が欠落しているもの、「現状」と「対策」とが何ら対応していないものなどは低く評価した。また、より一般的な「文章の論理性」「論旨の明快さ」も評価の対象とした。

設問2

【出典】
マルセル・モース『贈与論[新装版]』(有地亨訳,勁草書房2008)
引用:228頁16行目から233頁12行目まで。

【出題の意図】
 本設問の問題文は、レヴィ・ストロースによって「フランスの社会人類学的思索の真の珠玉」と賞賛された、マルセル・モース『贈与論』の一節である(問題作成上の理由から割愛等,若干の修正を施した)。出題に当たり,モースが『贈与論』で明らかにしようとした諸事実を設問の冒頭で概観し,受験者の問題文理解の一助とした。
 モースは、現代社会生活においても,未開社会に広範に見られる義務的贈答制の痕跡が、当時のヨーロッパ社会にひろく見い出されることを摘示しつつ、20世紀前半のヨーロッパ社会に生じつつあった新しい法現象や習俗を、それが社会変動への対応としてではなく、過去の道徳への復帰として評価すべきであるという。この観点から投機や高利貸しの制限の必要性に言及し,社会のあるべき姿を描こうとする。実は,本書の刊行から日遠からずして、ニューヨーク・ウォール街の「暗黒の木曜日」に端を発する世界大恐慌が起こる。モースは、当時生じてきた資本主義の歪みと、またヨーロッパに生まれつつあった新しい法や習俗を、人類社会の普遍的原則の視点から解き明かそうとしたのである。
 本設問は、このモースの主張の理解を問うものである。奇しくも、今日アメリカ発金融危機に起因する世界的な経済危機状況にあり、およそ80年前のフランス社会学の泰斗の主張から、いま何を学び取るべきかを、800字以内でクリアーに示すことのできた、社会的問題意識の高い答案に評価を与えた。