1 過去62年間続いた司法修習生への給与支給(給費制)を廃し,修習資金を貸与する制度(貸与制)を定めた2004年改正裁判所法の施行が,2010年11月に迫っている。
その改正は,厳しい財政状況を背景に,受益者負担,法科大学院の創設及び養成人員の増加等を理由とするものであったが,新しい法曹養成制度は生まれたばかりで,揺籃期にあり,不安定であるうえ,衆参両議院で「司法修習の理念を損なわないよう」「法曹養成制度全体の財政支援のあり方も含め関係機関と十分な協議を行うべきである」と附帯決議がついたことを考慮すれば,今直ちに給費制を廃し貸与制を実施することは妥当ではない。
2 そもそも,司法修習制度は,国民の権利義務に大きな影響を与える法曹を統一・公平・平等の理念によって養成し,より質の高い法曹を生み出すため,司法試験合格者が直ちに実務に就くことは妥当ではないとの判断のもと,司法修習生に修習専念義務を課し、労働の権利を制限するかわりに給与を支給して実施してきたものである。
これは法科大学院を中核とする新しい法曹養成制度下でも同様であり,なお司法修習制度の必要性・公共性が高いことは明らかである。また,上記改正と同時期に始まった公費投入による医師臨床研修制度と比べても,給費制による司法修習制度には強い存続理由がある。
3 これまで弁護士は,権利や自由を侵害された人々の救済にあたり,諸立法の実現に尽力し,被疑者・被告人に対する弁護をするなど,公益性の高い活動を行い,在野法曹としての役割を果たしてきた。これに加え,21世紀の司法では,弁護士は,全国あまねく市民に身近な法曹として,司法サービス,法教育,裁判員裁判及び被疑者国選弁護等に取り組み,公益的活動の幅を広げ,「社会生活上の医師」としての役割を果たすことが求められている。
このような21世紀の司法の機能を高め,質量ともに豊かな法曹を得るため,公平・開放・多様を理念とする法曹養成の専門的教育機関として,法科大学院が設立された。しかし,開設当初に比べ,社会人や非法学部出身者の入学が大幅に減少するという深刻な問題が発生し,法科大学院は,有為・多様な人材を法曹に送るため,身を削りながら,入学定員を削減するなどして,教育の質や司法試験合格率の向上のため,改善に着手している。九州・沖縄の法科大学院も,地域に貢献する法曹を養成するため,同様の改善を進めている。
かかる法科大学院の改善努力の途上にある今,司法修習生への貸与制を実施することは,法科大学院の改善努力に逆行し,司法修習生に過大な負債を負わせ,有為・多様な人材に法曹への道をあきらめさせる一因となるのではないかと危惧されるところである。また修習を終えて弁護士になった場合でも,過大な債務の返済を優先して公益的活動を敬遠するときは,期待される法曹の役割は大きく損なわれよう。それでは司法改革の理念に反する結果となる。
そこで,司法修習生に対する給費制の継続が強く求められるところである。
4 よって,九州弁護士会連合会,及び九州・沖縄の7法科大学院は,国会,政府及び最高裁判所に対し,給費制復活も視野に入れた法曹養成制度全体の財政支援のあり方について再検討すること,及び,そのため当分の間,改正法による2010年11月の貸与制実施を相当期間延期し,給費制継続の措置を講じられることを強く求める。
2009年(平成21年)6月8日
九州弁護士会連合会 理事長 前田 豊
九州・沖縄7法科大学院
鹿児島大学法科大学院長 采女博文
九州大学法科大学院長 西山芳喜
熊本大学法科大学院長 山本悦夫
久留米大学法科大学院長 西嶋法友
西南学院大学法科大学院長 横田守弘
福岡大学法科大学院長 山下義昭
琉球大学法科大学院長 良鉄美